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世界スタグフレーション―アメリカ・ECの実態と日本の対応 (有斐閣選書 (415))
著者:鬼塚 雄丞
販売元:有斐閣
(1982-05)
販売元:Amazon.co.jp
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まずは、概略から。

第1章 世界スタグフレーション
スタグフレーションの定義と特徴
スタグフレーションとは、持続的物価上昇と失業率の増加とが同時に起こることをいう。

フィリップス曲線に見る特徴
フィリップス曲線で世界各国のスタグフレーションの状況を分析。
*フィリップス曲線:経済学においてインフレーションと失業の関係を示したもの

スタグフレーションの原因
何らかの理由で、自国の民間部門(企業家計)が将来に対して強気となり、自発的に消費や投資を拡大したときに生じる。

基軸通貨とインフレの国際的伝播
固定相場制においては、インフレ国からインフレのない国へ、貨幣が移動して、インフレが調整される。それに対して、変動相場制においては、為替相場の変動により、インフレが調整される。

持続的物価上昇の本質的原因
持続的物価上昇の本質的原因は、完全雇用の実現と社会福祉の強化にある。

アメリカのインフレーション
アメリカのインフレは、デマンド・プル型インフレに近い。
*デマンド・プル型インフレ:需要が増加して、価格上昇が起きるインフレ
*コスト・プッシュ型インフレ:費用が増加して、価格上昇が起きるインフレ 

第2章 アメリカのスタグフレーション
アメリカ経済の活力低下
アメリカ経済の活力低下は、投資活動の質量両方の低下にある。

2レーガンの「経済再建計画」
レーガンの「経済再建計画」は、大きな政府から小さな政府への移行がテーマ。

サプライ・サイド・エコノミックス
減税の効果は二つの側面があり、

・減税→可処分所得の増加→総需要の増加→企業の生産計画の上方修正→インフレ
・減税→労働意欲や投資意欲への刺激→供給能力の増加

レーガンは後者を狙っている。

投資回復のプログラム
利子・配当収入やキャピタルゲインの税率を切り下げ、可処分所得を増やし、それを投資や貯蓄に促す。

活力は回復するか
この著書は、1982年に書かれたもので、この時点ではレーガンの政策の是非はハテナで、活力は回復するかどうか?でまとめられている。

第3章 欧州のスタグフレーションの実態と対応
欧州諸国のスタグフレーションの実態
欧州のスタフグレーションの実態を、スタグフレーション指数やフィリップ曲線などで分析。

フランスの事例
パールプランは、インフレ抑制、対外均衡の回復、経済成長達成、雇用の安定が狙い。

イギリスの事例
サッチャーは、慢性的なインフレの抑制、経済に占める公共部門の役割を減少させること、民間企業部門の活性化を図ることが狙い。

結びに変えて
フランスの事例とイギリスの事例から、共通項を探り、それとともに問題点を提示している。

第4章 国際金融取引の活発化と日本の金融市場
石油危機後の世界の資金循環
資金の出し手は産油国、取り手は非産油発展途上国。

オイルマネーの運用状況
オイルマネーの八割強が先進国に向かい、先進国市場を経由したあと、発展途上国に流れている。

金融取引の国際化とわが国金融機構の変革
金融の国際化は、企業に自由な資金調達手段と、金利・為替にもとづく最低取引の機会を与えた。

第5章 国際資本移動とインフレーション
国際資本移動の形態
国際資本移動の形態には二種類あり、短期資本移動と長期資本移動、直接投資と証券投資。
*直接投資:技術、ノウハウ、ブランドなどの資本移動を示す
*証券投資:会社の直接支配を示す

国際資本移動の理論
短期資本移動の理論は、外国為替市場の理論で説明できるが、長期資本移動の理論は、まだ理論が確立されておらず説明できない。

国際資本移動とインフレーション
資本移動が活発な現在の世界経済では、変動為替レート制度による隔離効果は期待できない。また、外国のインフレ政策は、自国からの流出となる場合は、自国のインフレ圧力として、自国への流入となる場合は、自国のデフレ圧力となる。

第6章 日本のスタグフレーション
問題の所在
スタグフレーションという定義が曖昧なため、使う人によって異なる。ひとつは、市場機構や賃金メカニズムなどの制度の硬直化、もうひとつは、インフレと失業率の悪化とが同時に起こること。日本は、前者の定義ではスタグフレーションに陥っていないが、後者の定義ではそれに陥っている。

説得力に欠けるコスト・プッシュ説
日本のインフレの要因には、OPECによる石油価格の大幅引き上げ、労働組合の価格支配力の増大による賃金の引き上げなど、諸説あるが、どれも説得力に欠ける。

マネタリー・アプローチによる分析
日本において、第一次オイルショックでは、マネー・サプライのコントロールにより、スタグフレーションを軽微に抑え、第二次オイルショックでは、マネー・サプライのコントロールにより、スタグフレーションを皆無に抑えた。

マネー・サプライ重視への転換
金融政策は、ほとんどの国で、物価安定策として使われ、指標としては、金利よりマネー・サプライが重視される。

第7章 日本における経済政策の展開
はじめに
世界スタグフレーションと日本経済について。

初期条件と政策環境
第一次オイルショックは、ハイパーインフレの過程で起き、第二次オイルショックは、物価安定状況で起きた。 

政策形成の過程
第一次オイルショック時の首相は福田赴夫で、第二次オイルショック時の首相は大平正芳。前者は、安定成長、後者は、自然体の政策がテーマ。

政策目的、手段、効果
第一次オイルショックは、スタグフレーションからの脱却、第二次オイルショックは、スタグフレーションの回避がテーマ。

日本経済はスタグフレーション・プルーフか?
産業構造が若いこと、技術革新の機械にめぐまれたことなど、日本経済は先進国に比べて、スタグフレーションにかかりにくい構造をしていた。

次に気になった箇所。

資本主義と社会主義
第一の要因は、第二次大戦後の資本主義経済においては、完全雇用の達成が政府の義務とされ、この目標のため、失業率がある目標水準がこえると拡大的財政・金融政策が発動される傾向が強かった。
世界スタグフレーション―アメリカ・ECの実態と日本の対応より

第二次大戦後を境目に、完全雇用を目指した、ロシアや中国などの社会主義ができ、完全雇用をあきらめ、適正な雇用水準を目指した、イギリスや米国などの資本主義が成立し、二分化したのだなと思った。

福田親子
福田首相の場合にあたっては、安定成長が年来の主張である。安定面については、「狂乱物価」「資源有限」の現実に直面して、緊縮政策志向に拍車がかかった。「全治三年」という見通しも、政策持続性を保証するのに役立った。これがインフレ・マインドを鎮圧し、後年の物価安定の土台をきずくことになる。
世界スタグフレーション―アメリカ・ECの実態と日本の対応より

親父高評価で、息子涙目。親子ともに、スタグフレーション状況下に就任、運命というものは皮肉なものだね。いやあ、このままだと息子はヤバイだろ(笑)。

最後に、まとめ。

まとめ
スタグフレーションを理解するために、この本を読んだ。この時期は、世界経済がはじめて、スタグフレーションに直面しただけあって、市場機構や賃金メカニズムの制度の硬直化、インフレと失業率の悪化が並行して起こることなどと、人それぞれでその定義が曖昧だったようだ。

また、この時期に起こったスタグフレーションについて、丁寧に書かれてあり、頭の整理にはなった。でも、フィリップス曲線で、π=f(u)+g(πe)とか、πe=β(π−πe)とかが出てきたのは、まじ冷や汗ものだった。

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